最初にその異変に気づいたのは、もう、祖父がベッドから起きて自分でトイレに行けるようになってからのことでした。もっとも、それ以前には、祖父は病院で看護されていたわけですから、家にもどって間もなくのことだったと思います。
 私は祖父が寝ついた後、しばらく休憩して、それからお風呂を使っていました。
 お風呂は祖父の寝る茶の間に面した廊下の反対側にあります。元気だった頃には二階に寝ていたのですが、退院してからは応接間にベッドを入れ、そこで寝るようになりました。
 廊下を隔てた浴室のドアはガラスですが、そこは洗面もかねているので、着替えは、さらにその奥でできるようになっていました。最初こそ、私は奥で着替えていたのですが、まだ、夏の暑い頃でしたから、広い洗面まで出て来て身体を拭くようになりました。もちろん、ガラス扉といっても曇りガラスですから、そう気になるものではありませんでした。それに、祖父と私以外には、家には誰れもいないのですから、あまり気にする必要もないと思ったのです。
 ところが、パジャマに着替えて洗面を出ると、私は祖父の寝る応接間の襖戸が開いているのに気づいたのです。ただ、祖父は夜中にトイレに立つと、よく、戸を開けたままにしていたようですから、それほど気にはしませんでした。
「おじいちゃん、起きてるの」
 と、静かに声をかけ、返事のないのを確認するや、そっと戸を閉めました。
 ところが、あるとき、応接間の前で持っていたタオルを落としたときに、その戸が閉まっていたのを何という気はなしに確認してしまったのです。それなのに、その日も私がお風呂から出ると戸が少し開いているのです。暗い部屋の中は見えませんが、祖父がこちらを見ているような気がしました。曇りガラス越しに見える孫の裸を祖父は見ているのかもしれないと思うと、私は、性的に興奮してしまいました。
 もちろん、戸はいつも開いているというわけではありません。私の入浴中に偶然に祖父がトイレに立ったことも考えられます。
 それでも、私の妄想は勝手にふくらみました。私はうっかりパジャマの下を忘れたふりをしました。誰れも見ていなければ忘れたふりなどする必要などないわけですが、それでも、一人でそうした演技をしてしまうのが私の癖なのです。
 上にパジャマを羽織ると、下は微妙に隠れてしまいました。私はパンツも穿かずに洗面を出ました。あわてているような、恥ずかしがっているようなふりをしました。祖父の部屋の戸は開いていました。洗面の明かりで、こちらの様子はハッキリと見てとれるはずです。
 私は過剰にパジャマを下に引っ張り、腰を引いてそこが見えないようにするふりをしました。
「おじいちゃん、起きてるの」
 いつも以上に小さな声で言いました。返事はありません。暗やみの中、祖父がそこに横たわるのは見えるのですが、その顔がこちらを見ているかどうかまでは分かりませんでした。私はそっと襖戸を閉めました。
 その戸は昼間も何度となく閉めるのですが、それでも、開いていることが多いのです。偶然なのかもしれません。偶然でもいい、もっと、祖父が私を気にしてくれればいい、私はそんなことを思いました。
 性的にも興奮はしていました。実の祖父が自分の裸に興味を持ってくれることが私には刺激だったのです。そのタブーは私を普通の露出以上に興奮させていたのだと思います。
 でも、それ以上に、私は私が祖父にとっての特別な存在となるのが嬉しかったような気がするのです。不思議な満足感です。たぶん、それは私と祖父との幼い頃の思い出から起こったものだと思います。