そのお店に行ったのは、もう一年ぶりぐらいになると思います。久しぶりに行くと、もうなくなっているお店や、トイレの構造だけが変わっているというお店が多いので心配したのですが、そのお店はまだありました。
 そのお店は、トイレに行くまでに、人がやっと通れるぐらいの通路があります。その通路があるおかげでトイレとお店は切り離されたようになっているのです。トイレのカギをしなくても、そのお店のトイレならドアを開けた人にしか見られません。他の人には、トイレを開けられたということさえ分からないはずなのです。誰れかにオシッコしている姿を見せたいのに、みんなに見せたことを知られるのは嫌なんです
 通路の奥のドアを開けると、洋式便器が横向きにあります。狭いのでドアを開けられたら、本当に真横に立たれることになります。
 私はそのトイレで立ったままオシッコすることを決めていました。
 最初はスカートでするつもりでした。でも、パンツが膝にあると、どうしてもオシッコが足にかかってしまうのです。それなら、いっそ下半身は脱いでしまおうと思いました。そして、どうせ脱ぐならパンツのほうがいいと思ったのです。脱いだものを片手に持って、そのままオシッコしてしまおうと思いました。
 浴室で練習しましたが、うまくいきました。少し腰を突き出しさえすればオシッコは狙ったところに飛びます。
 練習したことを思い出しながら私はトイレに向かいました。お店には数人のお客さんがいますが全員男の人です。さすがに女性に立ったままオシッコしている姿は見られたくありません。
 でも、私がトイレにいる間に女性が来て、いきなりトイレに入れば、その人には見られてしまうことになります。そのときは諦めて、おもいっきり惨めな思いをしようと覚悟していました。
 トイレを開け、一度、カギをかけました。音が聞こえないように、こっそりかけました。もちろん、そんなところからカギの音なんて聞こえるはずがありません。それでも、そっとカギをかけ、そして、パンツを重ねて一気に脱ぎました。まだ、ためらいはありませんでした。
 耳が遠くの音楽をとらえました。これなら人が来る足音も聞こえるかもしれないと思いました。でも、聞こえるとはかぎりません。突然、開けられるかもしれないのです。どんな顔をすればいいのでしょう。立ったまま下半身裸でオシッコしている変態女がトイレを開けられたからって、普通の女のように驚いた顔をしていいものなのでしょうか。
 そんなことを考えながらカギをそっとはずしました。これで、もう何もできません。私はものすごく無防備な状態でそこに立っているのです。オシッコはすぐには出ませんでした。このまま早く出して終わりにしたいという気持ちと、誰れかが来るまでもう少し待ちたいという気持ちで心が揺れていました。でも、そんなこととは関係なく、オシッコは出ません。足を大きく拡げて、便器をまたぐようにして立ちなおしました。これならだいじょうぶ。今なら誰れも来ない、きっと、だいじょうぶ、でも、誰れかに見られたい、この変態行為を見られたい、そんな思いが頭の中をかけめぐります。少し力を抜くとオシッコが出ました。思ったよりも前に飛んでしまったので、自分の足ではなく、便器を汚しそうになりました。
 オシッコは止めることができません。今、誰れかがドアを開けたら、もう何もできません。男の子がオシッコするように、おなかを前に突き出して、いい年齢の女がオシッコしているのです。完全に変態です。
 オシッコは勢いをなくして、足もとに落ちました。それから私はそっとカギをかけました。パンツをつけて、席にもどりました。たった今、このお店のトイレでとんでもない変態行為が行われたなんて誰れも知りません。
 少しの興奮を抑えて、私は日常にもどりました。